「意識高い消費者」創出
2021年03月02日
オーラル市場、歯5億本増
新型コロナウイルスで歯磨き市場に異変が起きている。ライオンによると、ある消費者調査で2020年、歯磨き粉を「家族用に買った」率を「個人用に買った」率が初めて上回ったそうだ。
新型コロナウイルスの感染拡大で家族といえども一非接触」が当たり前の感覚が背景にある。
歯医者に行けない、行きづらいという理由も大きい。ならば自力でケアを、と近年進んでいたセルフメディケーション意識が強まった。
さらにマスク装着が日常になって自分の口臭への関心が増し、プレミアム化が加速している。もちろん突然起きた現象でもない。
実は歯磨き粉、歯ブラシを中心としたオーラル市場は人口減の逆風を超えて順調に成長している優等生だ。例えば歯磨き粉は1個199円以下の低価格帯比率が低下しいる
一方、パーソナル化、プレミアム化などに伴い、単価上昇が続く。このため人口減、世帯数減少のなかでも2010年から19年にかけて市場は約2割伸びている。
歴史をひもとくと、オーラル市場はマーケティングの成功方程式を作り上げたことが分かる。ライオンや花王の企業努力だけでなく、政府も加わって「意識高い消費者」を創出した。花王は消費者の行動と製品の進化をリンクした歴史をまとめ上げている。今でこそ歯磨きは1日2回が80%以上を占め、ランチ後も珍しくない。だが1975年は1回以下が72%で、3回はわずか3%だった。虫歯予防が叫ばれ始めたのがこの頃だ。そして80年代から多様化の時代に突入する「つぶ塩」や芸能人は歯が命」のテレビCMでヒットした「アパガード」などが登場した。意識高い消費者を育てる起点になったのが、政府と日本歯科医師会が提唱した89年の「8020」運動だろう。「80歳になっても20本以上自分の歯を持とう」というフレーズは見事に知れ渡った。その後もオーラル市場には歯周病、知覚過敏など購入意欲を刺激する「テーマ」が続々登場する。オーラルケアが生活習慣病との関連性が高いとの情報も浸透が速かった。その結果、実は日本人の歯の残存数は2016年に25億本と30年前に比べると5億本増えているのだ。特に65~御歳は1人当たりの平均歯数が1105本からなんと21・6本に増えている。健康寿命には「歯が命」というわけだ。
定型変化も著しい。最近ネットで話題になったのがウエルテックが発売したジェル状の歯科専売歯磨きの「ConCool」。多くの人にとってジェルは未体験だが、殺菌効果や口の粘膜への優しさから人気を博した。
花王は20年3月に歯のパックまで売り出した。ライオンは顧客生涯価値(LTV)を意識し、世代別の戦略を展開している。洗口液の「NONIO」やあらゆる機能を盛り込んだ「システマハグキプラス」が武器。
息長く顧客を磨く戦略はどの分野にも応用できるはずだ。
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